ポプリ
 学校から帰宅したシオンは、しっかりと前を見据えて歩いていた。


 武闘派教師陣として知られるヴラド=ツェペリが花龍に求婚した。そのことを知ったシオンは、思わずヴラドに決闘を申し込んでしまった。

 彼女を想う気持ちはまだ胸の中に蔓延っている。

 以前マリアベルに言われたように、もう一度気持ちをぶつけてみるという選択肢もあったが、それをするにはシオンには勇気が足りなかった。

 もう一度想いをぶつけて。

 もう一度今の関係が壊れたら。

 恐らくもう元には戻らない。戻せない。そんなのは嫌だ。何物にも代えがたい大事なものだからこそ、想いを伝えるわけにはいかない。

 そんな葛藤の中、突如花龍を掻っ攫っていった吸血鬼。

 ……悔しかったのかもしれない。自分には出来ないことを颯爽とやってのけた恩師が羨ましかった。

 それでもいい機会だったのだ。

 いつまでも同じところに留まり続ける自分に、踏ん切りを付けるために。前に進むために。


 そうして吸血鬼の恩師は、見事にシオンを叩きのめしてくれた。

 彼は世に伝えられる、恐ろしく狡猾な化け物ではなかった。敗者への気遣い、未熟な教え子を導く力と持った、器の大きな男。

 憧れる。

 その、強さに。

 あの男のように強くなりたいと、心の底から思った。


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