ポプリ
 辿り着いた父の執務室。そのドアをノックすると、名乗る前に「入れ」と中から声がかかった。気配だけで息子が訪ねてきたのが分かったらしい。

「失礼します」

 中に入ると、執務机で書類整理をしている父と、それを部屋の隅から見守る母がいた。母と目が合うと、にこりと微笑みかけられる。

 それに微笑み返した後、シオンは表情を引き締め、父と向かい合った。

「俺に稽古をつけてください、“父上”」

 “父上”と呼んだのは、公の場以外では初めてだった。

 公家という家柄ではあるが、元は勇者の家系。シンや野菊も民間で育った人間であるため、リザ家は家臣を含め、アットホームな雰囲気に溢れている。

 だがもう甘えは許されない。

 本来ならば準成人を迎えたときに必要だった心構えを、今、改めて父に伝える。

 決意を宿した射貫くように鋭い目。それをシンはチラリと見やった後、判を押した書類を脇の山に重ね、次の書類に手を伸ばした。

「やっとやる気が出てきたのか」
 
 今まで気が抜けていた息子に対する父の言葉は冷淡だった。

「お前、まだヴィルにも勝てないだろう」

 ヴィル、とは、シオン付きの近衛騎士、ヴィルヘルム=ガルシアのことだ。実直な性格で、シオンが物心つく前から彼に忠実に仕えている。

 恐らく父ならば、シオンの年にはとっくの昔に超えていた壁。それをシオンはまだ越えられないでいる。お前は未熟だと、言外に言われている気がして唇を噛み締めた。

「……はい」

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