ポプリ
「ですが困りましたね。僕たちオーケストラ部の演奏を観に来てくださった方もいるでしょうし……」

 その大半は天才ヴァイオリニストの血を引く、麗しい少年の姿を見に来たご婦人方である。先程から体育館の周辺で「七音くんの演奏はまだなの? まだなの?」と騒いでいる。

 その声を聴きながら、七音と同じように正装し、楽器を持ってスタンバイしているオーケストラ部の皆も困った顔をする。

 校庭は出店でいっぱいだし、校舎内もクラスや部活の出し物で埋まっている。残っている空きスペースと言えば……。

「……屋上はどうですかね」

 七音は空を見上げながら呟いた。

「今日は天気も良いですし。屋上なら聴衆の皆さんも入れますし。外の皆にも聴いてもらえると思うんですけど」

「でも七音くん、屋上まで楽器運ぶの?」

 そう女子生徒から声がかかる。

 七音のようなヴァイオリンやフルートならば、手に持って移動も簡単だ。だがティンパニーやコントラバスは運ぶのに人手がいるし、それにピアノなど屋上まで運べない。オーケストラ部に力自慢の人外の生徒はいなかった。

「それならば問題はないぞ。鴉どもに手伝ってもらえば良い。他の楽器も狸たちに運ばせよう」

 紗雪がそう提案する。

「俺も手伝うよ!」

「私も」

「でも、ピアノは体育館から持ってくるのはさすがに……」

「それならピアノは俺たちが運ぶよ」

 と、シオンと花龍が請け負う。

 彼らは向き合うと手を合わせて集中し、森の精霊ドリアードを喚び出した。恥ずかしがりやのドリアードたちは顔を隠しながら蔦でピアノを覆い、シオンと花龍から魔力を受け取ると、そのまま一気に屋上までピアノを押し上げてしまった。

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