ポプリ
 修学旅行が終わった後の休日。

 一応公子であるシオンには公務が待っている。とは言っても、表立って動いているのは当主である父のシンなので、シオンはその手伝い程度だが。

 今は父が行った遺跡調査の報告書を纏める手伝いを主に、春(地球では夏)以降、継続して神殿の神祇官たちの動きをチェックしている。

 それらが纏められた報告書を、ダークブラウンを基調とした、落ち着いた雰囲気の執務室で目を通していると。

 バン、とノックもせずに扉が開けられた。

 現れたのは、肩口で切り揃えられた緑色の髪の、外見年齢で言えばシオンと同じくらいの、線の細い少年だった。

 少年はキョロキョロと辺りを見回すと、シオンの座っている執務机まで大股でやってきて、やや強引に足元に潜り込んできた。

「……レヴェント、何してんだ?」

 緑色の髪の少年の名は、レヴェント。

 レヴェント=グリフィノー。

 シオンの従兄弟にあたる人物……いや、竜物? である。

 彼は叔母であるシルヴィ=グリフィノーが拾ってきて育てている風竜だった。竜なのでもちろん、血の繋がりはない。『グリフィノーの竜』と呼ばれる竜たちのうちの一人だ。ちなみに、シオンの遺跡探索チームの一員でもある。

「僕はここにはいない。いいね? 僕はここにはいない!」

「うん?」

 状況を理解しないまま、更に扉が勢いよく開かれた。

 賑やかな音を立てて乱入してきたのは幼女だ。肩口で切り揃えられた碧色の髪の、一見、レヴェントと同じ色をした愛らしい幼女。それはシオンの“叔母”、シルヴィだった。

「シーちゃん」

「シオン! ここにレヴェントが来ねがったが!?」

「あー……」

 シオンはチラ、と視線を足元に落とした。

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