ポプリ
 机の下に、明らかに隠れきれていない大きさの人型をした竜がいる。彼は激しく首を振りながら口元に人差し指を当てていた。

「いや、来てないよ」

「んだが~? レヴェントの匂いがすんだげんちょなぁ……」

 ひくひくと鼻を動かすシルヴィ。

「ああ、さっき廊下ですれ違ったからかな」

 足元で顔を強張らせながら首を激しく振られたので、シオンはそう答えておいた。

「どっちさ行った?」

「どっちだろ。父上のとこかも?」

「兄ちゃんとこが! ありがとないシオン! レヴェント~、あんの宝物めが~、待ってらんしょよ~!」

 そう息巻いて、幼女の姿をした竜の母は出て行った。

 ちなみに、シルヴィは任意で人型の姿を変えられるので、たまに幼女だったり少女だったり、グラマラス妖艶美女になっていたりする。姿は仕事内容によって変えているようだ。ただし、中身はシルヴィのままなので、どれだけ妖艶な姿になろうと、ただただ残念なだけだ。

「……行ったぞ」

 足元に声をかけると、机の下からレヴェントがのそのそと這い出てきた。

「なんでシーちゃんから逃げてんの?」

 訪ねると、レヴェントは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「あの人(竜)、僕が懐かないのはコミュニケーションが足りないからだとか言って、僕のことを抱っこしたり頬擦りしたり、頭を撫でたりしてくるんだよ」

「別にいいじゃん」

「冗談じゃないよ! なんで僕がそんな人族みたいな愛情を受けなくちゃならないのさ!」

「一応、人族ん中で暮らしてんだから、そこは合わせたら?」

「嫌だね! 僕は望んでここにいるわけじゃないよ、あの人に無理やり連れて来られたんだから!」

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