ポプリ
 シャンリーは思っていた。

 ああ、兄はまた、報われない恋をしているのだと。

 シャンリーは去年まで、漠然とではあるが、花龍が『姉』になるのだろうと思っていた。幼い彼女から見ても二人は仲が良くてお似合いだった。何より、兄が花龍といるとしあわせそうだった。

 けれども、二人の想いは交わることはなかった。

 どうしてそうなったのか、幼いシャンリーには分からない。

 兄が元気を失くしてしまった。そのことだけが悲しかった。

 この一年、彼が心から笑っていなかったことに一体何人が気づいていただろうか。両親は知っていた。それでも立ち直るまで根気よく、普通に接しながら見守っていた。

 シャンリーも大好きな兄に元気になって欲しくて、常に明るい笑顔を心掛けた。

 少し大げさなくらいはしゃいでみせれば、シオンは少し困ったように、それでも笑ってくれた。シャンリーの頭を優しくなでながら……ちょっと、無理をして笑っていた。

 夏休み以降、その兄が変わった。

 無理をしていない笑顔を見せるようになった。

 変えたのは金髪碧眼の美女、天神学園教師のリプニーだ。

 素直で、真面目で、嘘の付けない、大人なのにかわいい人。

 兄は恋をした。

 恋をすることが出来た。

 でもそれは、報われない恋だ。

 シャンリーも最近、家のことについて学ぶようになった。兄や皇太子により、皇族の婚姻については大改革がなされた。

 それでも、兄はあの人と結ばれはしない。このままだと花龍のときと同じことになる。

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