ポプリ
 燃えるような赤髪に、深海色の瞳を持つリザ=ユグドラシェル公家当主、リィシン=リザ=ユグドラシェル公王である。

 彼が登場すると、コロシアム中から歓声が沸き起こった。割れんばかりの声援に手を上げながら闘技場の中央へゆっくりと進み出る。

 すでに変形を終えた愛剣『アストレイア』を手にした『勇者』の血を引く皇族に、観衆の目は釘づけだ。

 そして、闘技場の反対側からはもう一人登場する。

 翡翠色の瞳を優し気に細め、ハニーブラウンの波打つ髪を緩く結い上げたリザ公王の妹、早川リィファ。

 彼女の登場には悲鳴にも似た歓声が上がった。すでに皇籍からは抜けているリィだが、民衆の人気はシンと並んでいるようだ。

 皇家の紋章が描かれた黒いマントを翻しながらコロシアムの中央に歩み寄った二人は、微笑みながら一礼した。

 場内がしん、と静まり返る。

 そして。

 シンがアストレイアを一振りすると、そこに炎が巻き上がった。炎はシンの赤い髪を逆立たせ、空高くまで膨れ上がる。その炎の熱は障壁の張られている観客席にまで届くのだから、凄まじい熱量だ。

 火の女王ティナは巻き上がる炎の中で鋭い瞳をリィへ向けた。

 それに応えるように、リィはサイホルスターから魔銃、『クローリス』と『ヴィオラ』を引き抜く。

 途端、銃口は寒々しい白い靄に覆われる。

 氷の女王アランがゆっくりとリィに近づいてきた。彼女の白いドレスが地面を撫でる度、パキパキと音を立てて白く凍ってゆく。

 美しい形の唇からはキラキラと氷の粒が零れ落ち、シンの燃え上がる髪に降り注いだ。


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