ポプリ
「そうでございますな。本当ににリィファ様には感謝致します。けれども貴方様のお美しい姿も今日限りと思うと、この老いぼれにはちと寂しくてですのぅ。老い先短い爺の戯言と、広い心でお許しくだされ」

 ほっほっ、と白い髭を撫でながら笑った最高神祇官は、垂れ下がった白い眉の下で、軽く目を見開いて手を打った。

「そうじゃ、そうじゃ。リィファ様、今日は御子様はご一緒ではございませんか」

 キタコレ。

 シンはジト目になるのを堪えながら、リィに視線をやった。

「寂しがりの爺のために、是非御子様のお姿をお見せくださいませぬか。今日は皇族方もたくさん下界(一般人が出入りするところはこう呼ばれる)に降りておられる。年の近い方もおられますし、聡明な御子様ならば話も合いましょう」

 つまり、遠回しに見合いを進めているのだ。

 花龍や麗龍が精霊を召喚出来ることは、すでに神殿側には知れ渡っている。彼らは精霊の加護を受けた血を、再び皇族に戻したいのだ。

「あのさ」

 シンが口を開きかけた。

 だが先にリィがふわりと微笑み、話し出した。

「私の子たちには、すでにお相手がいるようですので」

 その言葉に、最高神祇官は大袈裟に「ほう」と声を上げた。

「それはどちらの御子様でしょう」

 リィはただ無言で、シンに顔を向けた。

 そして口元に手を当てて、ふふっ、と穏やかに声を漏らした。そんな妹に、良く分からないままシンも笑みを返す。

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