ポプリ
 目が覚めた時、最初にシオンの目に映ったのは美しい蒼の瞳だった。

 晴れ渡った蒼穹のように透き通っているはずのその目が、赤く潤んでいる。それを見たとき、ああ、随分と待たせたようだと申し訳なく思った。



 天神学園を揺るがす大事件があった。

 臥龍と鴉天狗の血を引く、強敵の来襲。

 過去、幾度か同じような危機に見舞われた学園だが、その時代の最強メンバーが悉くそれを退けてきた。

 それに倣うように、今回も。

 シオン一味は天神学園を守り切った。

 だがしかし、そのリーダーであるシオンが最後に放った大技が大問題だった。一言で表すならば、『お前は死ぬ気か』、だ。

 一柱でも自然災害級の力を持つ精霊の女王。

 それをなんと、15柱も召喚。

 命を代償としてもおかしくない試みを、学園最大の危機の最中にやってしまった。無事に敵は撃退出来たが、その代償として随分と長く眠りについてしまったようだ……。

「どのくらい、寝てた?」

 自分から出た声が別人のように擦れていて、少し驚いた。

 けほ、と軽く咳き込む。リプニーはシオンの口に水差しを添えながら答えた。

「一か月です」

「一か月」

「もう、冬ですよ。日本は、雪です」

 花のかんばせを歪ませて、リプニーは言う。

「シオンくん、紅葉も見逃したでしょう。あんな無茶をするからです。もう少しで……危なかったんです。花龍ちゃんやヴラド先生が魔力供給してくれなかったら、どうなっていたか……。禿鷲くんは確かに強かったですよ。でもだからと言って、自分の命を投げ出すようなことしちゃ駄目です。一味のリーダーとしての責任を感じていたのかもしれませんけど、でも、駄目です。だって、それでシオンくんがいなくなったら、私はっ……」

 ぽろぽろと白い頬を零れ落ちる涙。

 シオンはその涙を拭おうと、ベッドから手を持ち上げた。その手は重く、彼女の頬にまで届かない。

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