ポプリ
 代わりに彼女が彷徨う手を掴み、握りしめてくれた。

「今度シオンくんが倒れたら、私、赦しませんからね! お仕置き、しますよ!」

 言葉とは裏腹に、リプニーのシオンの手を握る力は弱々しく、震えていた。

 押し殺すような泣き声がシオンに落ちてくる。

 シオンはリプニーの手を握った。強くは握れなかった。握力も落ちているらしい。それでも、今出せる精一杯の力で、彼女の細い指を自分の指に絡ませた。

「“リプニー”」

 名を呼んだら、僅かに間を置いて、リプニーが顔を上げた。蒼い瞳がきょとりと丸くなっている。

「俺と、結婚して」


 ──今言うのは卑怯だろうか。

 それでも、今言いたくなったのだから、仕方ない。




 ベッドから起き上がれるようになった頃、シンが訪ねてきた。

 クッションを背にベッドに座る息子を見下ろした父は、何故15柱もの女王を召喚したのかと問うてきた。

 15柱もの同時召喚は、喚ぶだけで魔力を食い尽くされる。いかに魔力の豊富なシオンとて、そこで命を持っていかれても不思議ではなかった。

 けれどもシオンには勝算があったのだ。

 仲間たちが命がけで稼いでくれた5分という時間を目一杯使って、召喚の術式を完成させた。

 正式に術式を紡げば、そこに自分だけでなく自然界に流れる魔力を吸収したり、辺りに漂う小さな精霊たちに協力を得たりと、色んな補助を付けられる。結果、大幅に身体への負担を減らすことが出来た。

 女王たちの方からも力を貸して貰えることを想定していた。それだけ彼女たちとの絆は深いし、血の盟約は強力であると思っていた。

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