ポプリ
 雲ひとつない空は蒼く、風もない穏やかな日だった。柔らかく降り注ぐ太陽の光が、これほど哀しいと感じた日はなかった。

 祖父母は言った。曾祖母の死に、きっと耐えられなかったのだろうと。仲の良い二人だったから、と。

 そんな素振りは昨日までついぞ見せなかった。一緒に街道を歩いていたのだ。年をまったく感じさせない足取りで、ティーダの方が置いていかれそうだった。なのに朝、いつものように起こしに行って、そのときには、もう。

 最期まで輝かんばかりの光を、深い海の瞳に宿していた。

 どんなときでも笑っていた。他人に力強い勇気を与えても、己の苦しみを他人に分け与えようとはしなかった。そういう人なのだと、誰かが言った。

 ティーダは透き通るような蒼い空を見上げた。

 曾祖父の瞳は、もっと深い色だった。いつでも穏やかな光を湛えている彼の色が好きだった。頭を撫でてくれる大きな手が好きだった。人と魔族の垣根を越えて誰からも慕われた彼を、心から尊敬していた。

「ティーダ」

 父の声に徐に振り向くと、ずい、と大きな剣を寄越された。

 黒い柄に銀の装飾がなされた剣を見て、ティーダは父の顔を仰ぎ見る。これは曾祖父の剣だった。

「お前に託す」

「俺に?」

「ひいじいちゃんの志、お前が受け継げ」

 差し出された剣を、ティーダは恐る恐る、両手で受け取った。

 魔族討伐専用武器として昔使われていたというそれは、ずしりとした重みがあった。体感以上に、心がその重みを感じていた。

 ユースティティア。

 正義の剣だ。

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