ポプリ
 我に返った麗龍がおほん、おほんと咳払いをしたところで家の案内が再開される。

 二階は夫婦の寝室と空き部屋があるだけなので省略。

 一階のナチュラルカラーで統一された、北欧の雰囲気のあるリビングからダイニングキッチン、そしてバスルームと歩いていく。

 シンプルの中にある優しい緑。これは奥さんであるユリアの好みでリフォームしたらしい。

「ティーダくんのお部屋はこっちですよ~」

 そこは一階の一番奥にある部屋だった。他の部屋と同様、ナチュラルカラーで統一された、シンプルで清潔感のある部屋だ。

「お前んとこに比べたら狭いだろうけど、我慢しろよ」

 ずっと旅をしていたティーダだが、たまに帰る彼の家は皇都にある離宮だ。この家全部の広さが彼個人の部屋くらいの広さだろう。

「いや、凄く綺麗だよ。ありがとう」

 ベッドの上に置かれた愛らしいウサギのぬいぐるみ──これもユリアの趣味だろうか──を手に取り、抱き上げる。おしりについているタグには、『KANON』と書いてあった。知る人ぞ知るブランド『KANON』の新シリーズ、『権左衛門』だ。

 ウサギのつぶらな瞳を見ていると、麗龍がカラリと窓を開けた。その先には玄関から見たときよりもずっと広い、芝生の庭が広がっていた。

 周囲は木々に囲まれているので、すぐ傍に中華街があるなどと思えない静かな空間になっている。

「明日から早朝に稽古してやるよ。俺んとこばっかりじゃなくて、他所に出稽古に行くのもいいかもな。橘道場のノエルさんに頼んでもいいし」

「ノエルさん……龍一郎の、お父さんだね」

 ティーダの蒼い瞳が吊り上がる。

< 289 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop