ポプリ
 ティーダが早川家に世話になること数日。彼には少し、気になることがある。


 麗龍とユリアと一緒に夕飯を食べ終え、与えられた自室に帰ってから今日の授業内容の復習を終え(ドイツ語に手間取ってしまった。ロシア語だったら良かったのに!)、明日の予習もしておく。

 それから軽く体のストレッチをしてベッドに入る。

 何事もなく一日を過ごせたことをユグドラシェルに感謝して目を閉じれば、あっという間に夢の世界だ。

 しかし、その旅の途中でふいに意識が浮上する。

 闇の中、何かが動いている気配がする。この部屋の中ではない。二階の方からだ。

 初めは二人のうちどちらかが夜中に目が覚めて、喉が渇いて水を飲みに行ったとか、トイレに起きたりしているのだろうと思っていた。

 けれども違う。

 気配は家屋のどこかへ移動しているのではなく、二階の部屋から直接外へと出て行っている。注意深く気配を探れば、それが麗龍のものであることが分かった。壁掛け時計に目をやれば、午前0時。

 これが一度だけならば気にしなかった。けれども、夜中に麗龍が出ていくのは毎日のことなのだ。一体どこへ行っているのだろうと、気にならないわけがない。

 ティーダはベッドから抜け出すと、窓からそっと外に出た。

 麗龍の気配はもう見失いそうなほど遠くにある。それを追って慌てて走り出した。そうしてすぐに失敗したな、と思う。寒いのだ。もう冬に入っている。夜の気温は氷点下に近い。パジャマで出歩くのは馬鹿である。

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