ポプリ
「こんばんは」

 ティーダの気配には気づいていただろうに、ルナは声をかけられて初めて気づいた、とでも言うように小首を傾げてティーダを見下ろした。

「こんな時間にこんな人気のないところで何してるんだ。危ないだろ」

 女の子一人で、とティーダが言うと、ルナは小首を傾げたまま答えた。

「私は吸血鬼だもの。夜の世界が領分なの」

 答えになっているような、そうでないような。

 良く分からないが、確かに吸血鬼とは強いらしい。彼女の父ヴラドは真祖の吸血鬼であるし、母の花龍は精霊に愛されたユグドラシェルの血脈だ。

 心配はいらないか。

「知らない人についていくなよ」

 ティーダはそう忠告をし、踵を返そうとする。そんな彼の鼻先を、黒くて小さなものが掠めていく。

「うわ」

 思わず足を止める。くすくすと、鳥居の上から愛らしい笑い声が響いてきた。

「駄目だよ、麗龍くんの邪魔をしちゃ」

「え、麗龍兄ちゃんがどこ行ったのか知ってるのか?」

「さあ……どうかな」

 くすくす笑うルナの肩に、小さな黒いものが留まる。キーキーと小さく鳴くそれは、蝙蝠だった。

「知ってるなら教えてくれよ。麗龍兄ちゃん、毎晩いなくなるんだ。ユリアさんは知らないっぽいし……なんか危ないことでもしてるのか?」

「知ってどうするの?」

「危ないことをしてるのなら助けたいと思うし、悪いことをしているのなら諫めないといけないと思うし……何より、俺が心配だから。知りたいと思う」

 ルナを見上げるティーダの瞳は真っ直ぐだ。

 それを見下ろし、ルナは「ふうん」と呟いた。そして、クスリと笑う。

「じゃあ、教える代わりに私と遊んでくれる?」

「遊ぶ?」

「夜の散歩は静かな方が好きだけど、たまには賑やかなのもいいわ」

 ルナの翡翠色の瞳が、金色に輝く。

 ゆらり、と彼女から闘気が立ち上がるのを感じた。背後に見える大きな月が紅く見える。……今日はこんなに月の大きな日だっただろうか。

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