ポプリ
 距離は1キロ以上離れているか。こちらから視認することは難しいが、向こうからは見えているかもしれない。今の銃撃は狙撃銃によるものだ。スコープがついているだろう。

「……何してるんですか」

 そう、口を動かしてみた。……見えただろうか。




 家に帰ると、ユリアがエプロン姿で出迎えてくれた。

「お帰りなさい、ティーダくん。おやつありますから手洗いとうがいしてきてくださいねぇ~」

 にこにこと微笑む彼女を、ティーダはじっと見つめる。

「ん?」と首を傾げる彼女を、更にじっと見つめる。

 そのまま見つめ合うこと数秒。

「……硝煙の匂い、しますよ」

 そう言ったら、ユリアは愛らしい唇を尖らせた。

「そんなはずはないです~。ちゃんとしっかりシャワー浴びましたもん~」

「やっぱりユリアさんですか」

「んも~、どうして私だって分かったんですか~? あの距離じゃ見えないでしょ~?」

「見えます。俺、目がいいんで」

「ん~、そっかぁ~」

 ユリアはそう言って、ティーダに玄関を上がるように促す。そのままキッチンへと歩いて行って、テーブルにおやつのプリンを出してくれた。

「ユリアさん、何者なんですか。あの距離から狙えるって、相当な訓練を積んだ人じゃないと無理でしょう。麗龍兄ちゃんは知ってるんですか?」

 ガラスの器の中でプルプル震えるプリンに少しだけ心を奪われながらも、そう訊ねてみる。

 ユリアは「ん~」と人差し指を唇に当てた。それから、諦めたように微笑む。

「そうだよね、気付かないわけないよね。組織の伝説、『番のエージェント』のお孫さんだもんねぇ」

「……え、それじゃ」

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