ポプリ
 実を言うと、それまでシオンのことはあまり好きではなかったのだ。大好きな姉を泣かせる破廉恥野郎と認識していたから。

 けれどもその時から、シオンははっきりと麗龍の憧れになった。

(絶対にあの破廉恥野郎を追い越す!)

 そう思いながら、ひた走る。

 麗龍が弟子入りしたのは祖母の龍娘だ。彼女はもう弟子は取らずのんびりしたそうだったけれど、何度も頭を下げて頼み込んだ。

 最後には折れてくれて、

「ならば体力作りから始めろ。やるからには途中で投げ出したりするなよ」

 と言われたので、麗龍は毎日、天神地区を一周するようになった。最初は無理だった。半分も走らないうちにバテてしまい、途中で倒れているのを龍娘に発見され、背負われて龍虎軒に戻ってきたこともあった。

 時々鴉丸の人たちに拾われて、時々花龍が飛んできて、シオンにも「無理すんなよ」なんて言われたりしながら、徐々に慣らしていった。

 粉雪が舞う頃になって、ようやく一周出来るようになった。とは言っても、家に辿り着く頃には足を引き摺るような感じだったけれど。


 その日もせっせとランニングをする麗龍は、モヤモヤする気持ちを吹っ切るように、少々オーバーペースで走っていた。

 最近シャンリーがうるさいのだ。

「リュシアン様がね、リュシアン様ったらね」

 口を開けばユグドラシェル皇家の第二皇子のことばかり。

 うるさいったらない。

 俺の前で他の野郎の話なんかすんな、とか思ってしまうのだ。従姉以上初恋未満な、幼くも複雑な胸の内だった。

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