ポプリ
「こんにちはー、はなんだっけ? ずー、ずー……Здравствуй?」

 ズドラーストヴィ、と言ったら、少女の碧い瞳がまんまるに見開かれた。そして、また口をへの字にしてボロボロと涙を零した。

「うわ、なんで泣く! えええ……」

 麗龍が焦っていると、少女が手袋の填められた手でごしごしと涙を拭い、同じように「Здравствуй」と返してくれた。ふにゃふにゃとした、情けない笑みも浮かんでいる。

 言葉が通じたことに嬉しくなった麗龍だが、それ以上の会話は成立しなかった。こんなところで何をしているんだとか、お父さんとお母さんはどうしたとか、訊いても通じないのだ。

 麗龍は困った。こんなときは誰を頼ればいいのか。

 まず浮かんだのは姉の花龍だ。だが彼女はまだ学校だ。シオン一味のみんなも、すでに帰宅したシャンリー以外は学校。

 誰か大人に。

 きょろきょろと辺りを見回して、そういえば近くに交番があったことを思い出す。

「ついてこい。お巡りさんのところに行くぞ」

 と言って歩き出すものの、少女はついて来ない。不安そうにじっと麗龍を見つめるだけだ。

 麗龍は少しだけ考えて、ピン、と閃いた。

『男の子は女の子をエスコートするんだよ……』

 いつだったか花龍がそう言っていたのを思い出した。強い男の子は弱い女の子を守らないといけないのだ。

「ん」

 麗龍は少女に手を差し出した。

 少女は麗龍と差し出された手を交互に見て首を傾げる。

「ん」

 ずい、と更に差し出してみたが、少女は戸惑っているようだ。

< 314 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop