ポプリ
 それからどれくらい探しただろうか。すっかり日が暮れて手元が見えなくなってしまった。

 探し物は見つからなかった。少女の瞳にじわりと涙が浮かんでくる。

「Носовой платок, у меня от моего папы……」

「うわ、待て、泣くな!」

 麗龍は慌ててポケットを探る。何かいいものはないだろうか、と探って出てきたのはハンカチだった。隅の方にあるかわいい菫は、花龍お手製の刺繍だ。

 「汗を掻いたらちゃんと拭くんだよ」と持たせてくれたものだが、「なんで花なんかつけてんだよ! 恥ずかしい!」 とかなんとか怒鳴りつつ、受け取ったものだった。

 でもこれなら女の子にあげても良いだろう。花っぽいし。

 そう思って差し出したら、泣きそうだった少女の顔がぱあっと明るくなった。

「Цветочный платок!」

「あ、え? ……ああ、ハンカチ探してたのかよ」

 やっと理解した麗龍は、花龍からもらったハンカチを少女に差し出し、少女に無理やり押し付けた。

「これやるから我慢しろ」

 少女は少し戸惑ったような顔をしたが、すぐに笑顔になった。

「カワイイ。くれる、アリガト、ゴザイマスー」

「どういたしまして」


 その少女とは手を振って別れた。

 その後で、何だかこれによく似た状況があったことを思い出した。

「……あれ、もしかして、去年泣いてたヤツ……」

 そう気づいて振り返るも、すでに少女の姿は河川敷から消えていた。



 花龍に貰ったハンカチをあげてしまったので、家に帰ってからその報告をしたら、

「麗龍、良いことをしたね。偉かったね」

 と頭を撫でてくれた。

「やめろよ、子供じゃねぇんだからよ!」

 と手を振り払いつつ、頬を緩ませて嬉しさを隠しきれない麗龍だった。











 ロシア語はあやふやです。間違っていたらご指摘よろしくお願いいたします。




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