ポプリ
 三年生になった。

 相変わらず麗龍は体力作りの日々。天神地区一周をはじめ、体を柔らかくするためのストレッチや基本的な型の反復、歩法、呼吸法などを毎日繰り返す。

 けれども最近はそれに不満を覚えてきた。

 そろそろ何か技を教えて欲しいと龍娘に言ってみると。

「何をたわけたことを。今お前がやっていることは、例えるなら巨大な建造物を建てるために大掛かりな基礎工事を行っているところだ。土台がしっかりしていなければいくら立派なものを乗せてもすぐに崩れてしまう。見せかけだけのハリボテでは意味がないのだぞ」

「でも、俺と同じくらいから空手やってるヤツは、もう試合とかで色々やってんだよ。俺、絶対そいつらより体力あるし!」

「人と比べることに意味はない。お前にはお前の修行方法がある」

「だって毎日おんなじことばっかでつまんねぇんだもん!」

「つまらなくとも今が大事なのだ。しっかりと基礎を作って……」

「そんなこと言って、ばあちゃん手本も何も見せないで腹出して寝てるだけじゃん!」

「うっ、ち、違う、必要なことはちゃんと伝えているのだ」

「嘘だ! 教えるのが面倒で適当にしてんだろ!」

「そうではない……」

「俺もう嫌だ! 技教えてくれないなら今すぐ辞める!」

「……ならば辞めるか。私は言ったはずだ。やるからには最後までやり通せと。こんな基本も出来ん根性なしでは何も成すことなど出来ん。教える時間が無駄だ」

 祖母からの厳しい言葉に、麗龍はぎゅっと拳を握りしめた。

「っ……んなら、辞めてやるよ、クソババア!」

 そう叫んで、龍虎軒の裏庭から逃げ出した。



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