ポプリ
 夕刻の買い物客で賑わう中華街を駆け抜けて、ふと、足を止める。

 まだ腹立たしさは収まっていないけれど、それとは別な感情が、じわり、じわりと胸の奥から湧き上がってきた。けれどもそれから目を背けるように、大股で通りを歩く。

「……技を教えてくれないばあちゃんが悪いんだ」

 不貞腐れた顔で歩いていると、男の怒鳴り声が聞こえてきた。顔を上げると、前方に人の流れが悪くなっているところがあった。通行人が目を向けている先には、学ランを着崩した柄の悪そうな高校生が、数人で小さな少女を取り囲む光景があった。

「んだからよおっ、謝ったくらいじゃ済まねぇんだよお嬢ちゃああん!」

「ねぇねぇ、余所見しながらアイス食べちゃダメでしょおお? 人にぶつかったらこうなんのぉ! ベッタベタなんの! ママに教えて貰わなかったのおん?」

「ス、スミ、マセン、デシタぁ……」

「んだから謝ったくらいじゃ済まねぇのお! クリーニング代が必要なんだよ、ほら、その財布で赦してやんよ、さっさと寄越せや」

「こ、これ、ダメ、デスぅ……」

「ああん? いいから寄越せっつってんだよぉ!」

 麗龍は辺りを見回した。

 通り過ぎる人々はチラチラと少女を気にしているようだが、柄の悪い男子高生の前に出る勇気はないのか、皆動こうとしない。

 麗龍はするりと人の波をかき分けて、少女の前に出た。

「うおっ?」

 急に現れた少年に、男子高生たちは驚いて飛退いた。

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