ポプリ
 それに構わず、麗龍は少女を振り返る。

「お前、アイツらにぶつかったのは事実か?」

「え、エエト……ハイ」

「じゃあしょうがねぇな。金はいくら持ってる?」

 少女は手に持っていたポシェットを開け、中身を見る。

「こ、これ、くらい」

「ふうん、千円出せ」

「せんエン。これ?」

「ん。これ、アイツらにクリーニング代として出すけど、いいよな」

「は、ハイ。イイデスー」

 麗龍は少女から千円札を受け取ると、一番ガタイのいい男子生徒に向かって差し出した。

「クリーニング代ならそれで充分だろ。謝ってんだからそれで赦してやれよ」

「はあ? 何言っちゃってんのこの坊主」

「俺らの心を傷つけられた代償はどうしてくれんだよぉ。イシャリョー、だよ、イシャリョー」

「大の男がちっこい女の子虐めて慰謝料もねぇだろ、アホか」

「ああん!?」

 男子生徒たちがいきり立った。

 あ、しまった、と麗龍は舌打ちした。祖母と喧嘩してきたので少し苛々していた。そのせいでわざわざ煽るようなことを言ってしまった。

「めんどくせぇ。……おい、行くぞ」

 麗龍は少女の手を掴むと、するり、と男子生徒たちの大根脚を擦り抜けた。そして周りを取り囲んでいた人垣をも擦り抜け、中華街を走り出す。

 背後で男子生徒たちががなり立てているが、無視してどんどん走る。

 追いかけてきてはいるようだが、大勢の買い物客が壁となって中々前には進めないようだ。そのうちに、麗龍と少女はどんどん差を広げる。

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