ポプリ
 少女はポシェットの中から一枚のハンカチを取り出して広げて見せた。

 見覚えのある白いハンカチだ。隅に菫の刺繍がしてある。

「……あの時の麦わら帽子か」

「ハイ! ハイ! ワタシデスー。会いたかったデスー、これ持ってた、会える、思たデス。日本語、勉強、しまシタ。アナタ、会いたかったー、カラ」

 麗龍の手を握り、ぐいぐい迫ってくる少女に腰が引ける。

 しかもキラキラした目で笑う少女がとても輝いて見えて、何だか居心地が悪くなった。

 そういえば初めて会ったときは大泣きしていて酷い顔だったし、二度目に会った時は麦わら帽子で良く顔が見えなかった。ちゃんと正面から向き合うのはこれが初めてだ。

 肩までのふわふわした金髪に、澄んだ碧い瞳。

 白い肌にほんのり紅く染まる頬。

 ほわり、とした笑顔が可愛らしいと認識した瞬間、ぼっと顔に火がついた。

「ち、近い! 離れろ!」

「ゴメンナサイー。デモ、アナタ、誰かに似てマスー」

「え?」

「ワタシ、知ってる人ー。顔、良く見せてクダサーイ」

「だから、近い!」

 なおも顔を近づけてくる少女の肩を掴み、ぐいと押し返す。少女はしばらく首を傾げていたが、やがてぱっと笑みを浮かべた。

「お名前、ナンテ、イイマスカー? ワタシ、ユリア、イイマスー」

「……麗龍」

「らいと、くん。えへへ、らいと、くん、デスネー。やっとお名前、ワカリマシター」

 名乗れば、ユリアは更に嬉しそうに笑った。

 それから彼女は「再会の記念デスー」と、肉まんを奢ってくれた。

 店先のベンチに並んで座り、熱々の肉まんをはふはふ頬張る。

 そこで彼女が両親の出張で一週間ほど日本に滞在していることと、もうすぐロシアに帰ることを聞いた。

「マタ、会える、嬉しいデスー」

 にこにこ笑うユリアに、麗龍はそっぽを向きながら小さく頷いた。
 
 


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