ポプリ
 四年生に進級する春休み。

 高校卒業を待って、花龍がお嫁に行くことになった。



 麗龍はむっすりしていた。龍娘もむっすりしていた。虎次郎は泣いていた。覇龍闘とリィは笑顔だったけれど、涙を零さないように必死に我慢していた。

「父上、母上、おじいちゃん、おばあちゃん、それに……麗龍。今までお世話になりました」

 純白のウエディングドレスを着た花龍が、家族に向かってゆっくりと頭を下げた。

 その姿の美しいこと。

 まるでお姫様みたいだ、と思わず溜息を零した麗龍だったが、すぐにもう姉は早川家の人間ではなくなるのだと思い、口をへの字に曲げた。

 癪なのは、お姫様の姉が更に美しく見えるのが、彼の人に向かって微笑みかけたときだということだ。

 ヴラドもまた見違えていた。

 花龍を迎えに来たヴラドは、いつもはもっさりしている髪を綺麗に後ろに撫でつけていて、その秀麗な顔を日の元に晒していた。


──お前誰やねん


 早川家の面々は胸の内で総ツッコミを入れた。

 いつもは陰気な空気を醸し出している吸血鬼、ヴラド・ツェペリは、実は物凄い美形だった。

 そして彼の隣に花龍が並ぶと、誰もが王と王妃であると認めざるを得ない、高貴な光を纏うのだ。

 その姿がとても遠い。

 いつも傍にいたお姉ちゃんがいなくなる。

 そう思うと涙が零れそうになって、俯いてぎゅっと唇を噛み締めた。そんな麗龍を、花龍がそっと抱きしめる。

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