ポプリ
「おい、大丈夫か?」

「は、ハイ、危ないところを、ありがとうございマス……」

「ったく、お前もリンゴみたいに転がるところだったぞ。気を付けろ」

 少女が顔を上げると、至近距離で目が合った。

 しばらく互いの顔を見つめて、その後、少女が目を丸くした。

「麗龍くん~!」

「……おう。なんか、いつもこんな感じだな、お前」

 麗龍は苦笑しながらユリアを立たせる。

「わあ、また会えましたねぇ、嬉しいデスー」

「またお父さんたちの出張か?」

「あ……ハイ、そんなところデス……」

 何故だかユリアは曖昧に微笑んだ。それに若干違和感を覚えながらも、背中の買い物袋に入れた大量のリンゴをユリアに見せる。

「これ、お前の?」

「あっ、ハイ。袋が破けてしまったのデスー」

 ユリアの持つビニール袋は、見事に底が破けてしまっていた。

「リンゴ、全部落ちてしまいました……」

「だろうな。全部あるといいんだけど」

 麗龍は予備に持っていた買い物袋に拾ったリンゴを入れてやり、ユリアに渡した。

「ありがとうございマス。麗龍くんにはいつも助けられてばかりデスねー」

「ホントにな」

「麗龍くんも、お買い物デス?」

「うん、姉ちゃんの」

「お姉さんのお買い物、麗龍くんするデス? エライのデスー」

「いや、今姉ちゃん、ちょっと具合悪くて」

「ご病気デス……?」

「いや、悪阻、なんだけど」

「ツワリ……ツワリ、とは何デスか?」

「あー……えーと、赤ちゃんが、出来て……気持ち悪くなって食べられなくなるヤツ」

「赤ちゃん! それは嬉しいのデスけど、でも、ツワリ、良くないデスね。気持ち悪いのイヤデスね……」

「うん」

 麗龍は少ししょんぼりした。姉の元気がないと、麗龍も元気がなくなるのだ。

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