ポプリ
 結果、噛まれた。

 血が出た。

「こら、ル──」

 麗龍はルナの顔を見てどきっとした。彼女の翡翠色の目が、金色になっている。

「な、お前……」

 手を引っ込めようとしたけれど、がっちり噛まれていて引き剥がせない。生まれて半年の子どもの力ではなかった。

「ルナ、こら、離せ!」

 指先が熱い。
 
 血を奪われている。

 ああ、彼女の本能を目覚めさせてしまったのか──と焦りを感じ始めたとき、花龍が戻ってきて、闇の精霊シェイドの力で強制的にルナを眠らせてくれた。


 その事件以降、ルナの麗龍への執着が酷くなった。

 今まで以上に傍に寄りたがり、隙あらば食らいつこうとする。引き離せば大泣きだ。それは吸血鬼としての本能であり、麗龍の持つ血のせいでもあるらしかった。

「貴様も花龍と同じ、ユグドラシェルの皇の血統だろう。他の人間の血とは一線を画する。我々吸血鬼が求めてやまない、極上の血だ」

 ヴラドも花龍に対しては、抑えきれない衝動に駆られる時があるという。

 長い時を生きてきたヴラドだからこそ抑えも効くが、生まれたてのルナにはその衝動を抑えることは出来ない。

 このままにしておくとルナはいずれ母親の血をも求めるようになる。それは避けたかった。

「ルナに教育を施す。それまで貴様はこの家に出入り禁止だ」

 それが麗龍のためでもあるし、ルナのためでもあると言われた。

 かわいい姪っ子と引き離されることに不満はあったが、麗龍の血を欲して大泣きするルナを見るのも辛い。しばらくは我慢だと、自分に言い聞かせながらツェペリ邸を後にした。


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