ポプリ
「ううう、ごめんなさい、ごめんなさい、階段から落ちたら麗龍くんがいたのです~!」

「あ、そう……」

 ならば、それに気づかなかった自分が悪いのだ、と麗龍は起き上がろうとした。だが頭を打ったせいか、ぐらりと視界が歪んで気持ち悪くなった。

《麗龍~》

「麗龍くん~!」

「ああ、うるせ……」

 顔を歪めながら、右手に魔力を込める。

 麗龍はまだ無詠唱召喚が出来ない。花龍はこの年にはもう出来ていたから、適正の問題もあるのかもしれない。

「『シルフ、穏やかなる癒しの風を巻き起こせ』」

 呪文という引き金がないと発動しない麗龍の召喚術。

 花龍やシオンのように無詠唱で出来れば便利なのに……なんて思っているうちに、碧の風が麗龍を包み込み、傷を癒してくれた。

 気持ち悪さは若干残るが、これでもう大丈夫なはずだ。

 今度こそ起き上がり、顔に手をやる。べっとりと血がついた。鼻血が出ていたようだ。

「麗龍くん、起き上がっちゃ駄目ですよ~、あ、血はこれでっ」

 ユリアにハンカチを顔に押し付けられる。

「ああ、悪ぃ。……お前は怪我ないのか」

「はい~。麗龍くんのおかげで……あの、ごめんなさい……」

「ああ、まあ、お前に怪我がないのならいい」

 言いながら、溜息をつく。

 女の子の頭突き喰らって鼻血とか、カッコ悪い、俺。

 そんなことを思っていると、ユリアがこちらをジッと見ていることに気付いた。

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