ポプリ
「……なんだよ」

 鼻血のついた顔が変なのか? とか心配しながら、借りたハンカチでゴシゴシ顔を擦る。

「……麗龍くん。……早川さん?」

「は? ……そうだけど」

 答えた瞬間、ユリアの瞳が輝いた気がした。それに首を傾げながら、疑問を口にする。

「……言ったっけ?」

 苗字を名乗った覚えはなかった。

「え、ええと……」

 ユリアは少し目を泳がせた。

「あの、ですね。ええと、麗龍くんに貰ったハンカチに、名前が、書いてありました。漢字が、そう、最近、読めるようになりまして~」

「……ふうん」

 3年も前のことなど覚えていないが、そうだと言うのならそうなのかもしれない。お節介な花龍あたりが書いておいたのだろう。

「あっ、そうだ、麗龍くんにお借りしていた袋があるんです~!」

 この話は終わり、と言わんばかりにユリアは肩から提げていたバッグから買い物袋を取り出した。

「……持ち歩いてたのか」

「はい! いつお会いできるか分かりませんでしたから。……これを持っていれば、きっと麗龍くんに会えると思っていました。返すの、遅くなってすみませんでした~」

「いや、別にいいよ。……あ、姉ちゃんが、リンゴ食べてくれたよ。ありがとな」

「あっ! そういえば赤ちゃんは~……?」

「生まれた。今、六か月くらい」

「わあ、おめでとうございます~!」

 ユリアは祝福してくれたが、かわいいルナの笑顔を思い出して、ちょっとしょんぼりする麗龍。一瞬この世の終わりが見えたが、今はユリアを相手にしているのだと、気持ちを持ち直す。

 それから顔を拭いていたハンカチを見て、これをこのまま返すわけにはいかないと思った。

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