ポプリ
「麗龍」

 いつの間にか、リディルが麗龍を見ていた。

「おいで」

 ぽんぽん、と横の地面を叩いて手招きする祖母に、麗龍は素直に従った。眠っているティーダを起こさないように、隣にそっと腰を下ろす。

「今日は学校お休みなの?」

「うん」

「そう」

 穏やかな笑みを浮かべる祖母に頷いて、それから抱っこされたままぐっすりと眠るティーダの顔を眺めた。何の夢を見ているのか、むぐむぐと口を動かしている。平和な顔だ、と思った。

「重くないの?」

「この重みが気持ちいいんだよ」

「そっか」

 なんとなく解るかも、と麗龍は頷いた。

 それから、穏やかな眼差しを向けてくる祖母を見上げる。翡翠色の、綺麗な瞳をしていた。麗龍の瞳の色は確かにこの人から受け継がれているのに。どうして召喚術が上手くならないのだろうか。

「……この星には、まだ精霊は帰ってきてないんだよな?」

 それだとこの星では精霊召喚術の練習はどうやってやるんだろう、と思いながら訊ねる。

「そうだね。まだ、起きれないの」

「でも今、精霊みたいなのがいた。リディルばあちゃんの周り飛んでたけど、あれなんだろ」

 そう言ったら、リディルはゆるりと首を傾げた。それから麗龍を見て微笑み、優しい陽の降り注ぐ空を見上げた。

「まだ、いないよ。……私が“ここ”にいるから」

「ここ?」

「そう、ここに」

 そう言って目を細める祖母の姿を、地面から湧き上がってきた碧色の柔らかな光がすうっと覆い隠した。

< 347 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop