ポプリ
 それは優しい魔力。

 それは優しい彼女の力。

 けれどもそれは祖母の姿を隠してしまう。消してしまう。“ここ”から、連れ去ってしまう──。

 
 気が付いたら、祖母の服の裾を掴んで強く引っ張っていた。そうしなければ彼女がどこかへ消えてしまいそうだった。シャンリーが不安がっていた理由が解った気がした。

 リディルはゆるりと麗龍へ顔を向けて、そして申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんね。怖い想い、させた?」

「ばあちゃん……」

「うん、本当、私は……フェイみたいに、上手く出来ないなぁ……」

 ごめんね、ともう一度囁いて、リディルは麗龍の頭を撫でた。

 その温かな手は、確かに麗龍にぬくもりをくれるのだけれど。

 同時に、酷い喪失感を覚えた。

「ばあちゃん、俺に召喚術教えて」

 今でなければ駄目だと思った。

 今でなければ、もう、教えを乞うことが出来なくなる。

「いいよ」

 不安そうに瞳を揺らす麗龍を安心させるように、リディルは柔らかく微笑む。

「にゃんにゃん先生に負けない、いいお師匠様にならないといけないね」

 麗龍は泣き笑いの顔で、しっかりと頷いた。



 リディアーナ=グリフィノーは『精霊王』。

 それは一族の者だけが知る真実。

 その力は人の器に留めておけない。そして、留めておいてはらなぬものなのだろう。新しい精霊たちの目覚めの為に。

 
 麗龍は急いで彼女の教えを自分のものにしなければならなかった。

 祖母が家族のものではなく、『世界』のものになる前に。




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