ポプリ
「なんつーとこに上ってんだ、お前!」

 ユリアを横抱きにしたまま怒鳴る麗龍は、彼女の返事を待たずに周囲に視線を走らせた。シャンリーが麗龍と背中合わせになるようにして立つ。

「麗龍、知り合い?」

 訊ねながら周囲を確認するシャンリーの目が、密集している住宅の屋根を飛び移ってくる黒い影を捉える。

「知り合い、っていうか……」

 口籠っているうちに、シャンリーの方で勝手に解釈してくれた。

「ハンカチの君ね。感動の再会中に悪いんだけど」

「別に感動なんか!」

「あんまり会いたくないお客さんが来たよ」

 黒い影が屋根の上から次々と降りてきた。黒いスーツにサングラス。いかにも怪しげな風貌の彼らからは人の気配がしない。

「何かの術式によって動く傀儡か」

 スーツの男たちの気の流れを読んだシャンリーが言う。

「ユリア、こいつら知り合いか?」

「し、知り合いと言いますか……」

 ユリアが口籠っていると、シャンリーがまた勝手に解釈してくれた。

「まあ、悪者ってことで、オーケー?」

「はい」

 ユリアは頷いた。

 確かに良い印象は受けない。彼らが放つ殺気が黒いオーラとして見えそうなくらいだ。精霊たちが麗龍とシャンリーの周りを飛び交い、警戒している。

「麗龍、その子連れて逃げて」

「いや、でも」

「ちょちょっと片付けておくから。その間に連絡先のひとつも聞いておきなよ」

 肩越しに振り返り、シャンリーはウインクして見せる。

 麗龍は周囲を飛び交う精霊たちを見やった。彼らも頷いて《任せろ!》と言っている。

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