ポプリ
 爆発して辺りに霧散した中から現れた黒い呪符を、拳で突いて消滅させる。それを見ていたユリアの目がキラキラと輝く。

「麗龍くん、とっても強いです~」

「べ、別に大したことねぇよ」

 麗龍は少しだけ照れた後、すぐに真顔になった。

「……で、何が狙いなんだ」

 再び手にした呪符に質問する。

『ギ、ギィ』

 まるで生き物のように麗龍の手の中で暴れる呪符。しかし意思を伝える術を持たないのか、それとも言わないだけなのか、答えは返って来ない。麗龍はユリアへ視線をやる。

「ユリア、コイツの親玉知ってんのか?」

「え、ええと、それは、そのぉ……」

「はっきり言え」

「……ごめんなさい、言えません」

 ジロリ、と麗龍はユリアを睨んだ。

「す、すみません~!」

 ユリアは涙目で謝るも、言う気はなさそうだ。

「分かった。言う気になったら言え」

 と、黒い呪符を握り潰す。ギィアア、と嫌な叫び声を上げて呪符は消え去った。

「……ありがとうございます」

「礼を言うのはまだ早いみたいだぞ」

 ざざざ、と周囲の木々がざわめく。

 春の穏やかな陽気だったのが、次第に空が暗くなり、肌を撫でる空気がヒヤリと温度を下げる。先程の傀儡たちも嫌な感じだったが、これはその比ではない。本当にヤバいのが来る。

 そう思ったとき、ユリアに腕を引かれた。

「麗龍くん、逃げてください。怖いのが来ます!」

「ああ」

「巻き込みたくなかったんです! だから、逃げてください~!」



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