ポプリ
 目の前の空間が歪む。

 暗くなった空に碧色の巨大な召喚魔法陣が出現し、そこから緑色のドレスに身を包んだ、美しい女性が現れる。

 ミルトゥワの森の精霊の女王、フォレイス。

 見上げるほどに大きな女王は、麗龍とユリアの前に降り立ち、花が綻ぶような艶やかな笑みを浮かべた。深い森を思わせる紺碧の瞳は慈愛に満ちている。

「母上も一緒だった」

 そのことに安堵する。

 リィが召喚したのであろうフォレイスの女王は、麗龍たちを安心させるように頷くと、背後を振り返った。そうして禍々しい気を放つ敵を一瞥し、ゆったりと両手を広げる。

 周りの木々がざわりと揺れ、そしてその枝を、葉を、研ぎ澄まされたナイフのように鋭く尖らせた。

 それらは一瞬のうちに敵を串刺しにし、更に枝で編み込まれた檻に閉じ込めてしまう。しかし串刺しにした敵は、それでも息絶えることなく不気味に微笑んでいる。

 その前に立ったのは、マテバ6ウニカを手にした父、覇龍闘と、魔銃クローリスとヴィオラを構える母、リィだ。

「麗龍、でかした」

 マテバを敵に向かって撃ちながら、覇龍闘が言う。

「麗龍、もう隠れなくて大丈夫。ウィスプの守りの壁だけ残して、あとは還して。……よく頑張ったね」

 リィは見えないはずの麗龍の方へ視線を向け、微笑む。


 黒爪に見えていた敵は、いつの間にか天にも昇ろうかという黒い大蛇に姿を変えていた。

 鎌首をもたげる大蛇はフォレイスの檻を突き破り、覇龍闘たちへと襲い掛かっていく。しかしすぐに覇龍闘の銃弾に頭を後ろへ倒し、その隙にまたリィとフォレイスによって捕えられる。

 その攻防が何度が続いて、やっと、大蛇は大人しくなった。

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