ポプリ
「……もう、そんな時期か」

「もうそんな時期なんだよ。……はぁ」

 シャンリーは深く項垂れる。

「でも相手は皇家の第二皇子だろ? 仲いいんだから大丈夫じゃねぇの?」

「ウチと皇家では半分決まりみたいな空気は流れてるけど、確約を貰ってるわけじゃないし。それに、ここに来てライバルが現れた。超セクシーダイナマイツ美女」

「……そんな人いたっけ」

「そんな人だらけだよ公家は」

「……お前は」

「うっさい黙れ!」

 ぺたんこな胸を指差してやれば、拳骨が脳天に落とされた。

「いや、でもリュシアンってさ、お前のこと好きなんじゃねぇの?」

「……わかんない。好かれてはいるよ。可愛がってくれるし。でも恋愛の好きかどうか、自信、ないな。最近エルネスト様と親し気で……この間の舞踏会も一番に踊ってたんだよ。舞踏会で一番にダンスを踊るって、どういう意味か分かる!?」

 鬼気迫る顔でがしっと肩を掴まれ、麗龍はちょっと引きながら頷いた。

「家族か、婚約者、またはその予定の人、だろ……」

「そうだよ! 今まではずっと私が一番だったの! マリアベル様がいつも踊るように勧めてくれてて! なのにこの間はマリアベル様がご懐妊で具合悪くて出席出来なくて、隙を突かれて! ううーくそう、あの女!」

「落ち着け、言葉が乱れてるぞ公女様」

「だって! だってもう、リュシアン様以外、考えられないのに……でも、リュシアン様がエルネスト様がいいって言ったら、そうなっちゃうんだよ!」

 いつも笑顔の絶えないシャンリーの泣きそうな顔を見て、難儀な家に生まれたものだ、と麗龍は思う。

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