ポプリ
 選択肢がほとんどない中で意中の人を取られてしまったら、心の通わない相手との婚姻もあり得る世界だ。

 普段の明るい彼女を見ていると、楽しいことしかないように見えるけれど。

 そうじゃないことも、たくさん、あるのだ。

「……ちゃんとリュシアンに言って来いよ。ここでウダウダ言ってもしょうがねぇだろ」

 ぺちん、とシャンリーの形のいい額を叩きながら言う。麗龍なりの激励だった。

「……うん」

 結局のところ、麗龍の言う通り、正面からぶつかっていくしかないのだ。

 シャンリーは頷いて、強張っていた表情を緩めた。

「ごめん。他に相談出来る人がいないから、ちょっと愚痴っちゃった。あっち(ミルトゥワ)の誰かに相談すると、兄上や姉上にも聞こえちゃうからさ……」

 シャンリーがリザ公家の跡取りになることで、シオンとリプニーは結ばれた。

 なのにそのシャンリーの結婚で問題が浮上しているなどと、彼らには言えないだろう。心配をかけたくはないし、自分たちのせいでシャンリーに負担をかけているなどと思われたくはないから。

「別に、話くらいいつでも聞いてやるよ。聞くしか出来ねぇけど」

「うん、ありがとう」




 それからシャンリーからは何の相談も受けることなく、夏休みに入った。最後に見た彼女は覚悟を決めた凛々しい顔をしていたから、恐らくこの夏休み中に決着をつけるつもりなのだろう。

 頑張れよ、と心の中でエールを送りながら、麗龍は更なる修行の毎日だ。部活をしていないので、龍娘からは地獄のようなメニューを言い渡される。毎日夕食後は倒れるようにして眠った。

< 367 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop