ポプリ
 シオンは立ち止まった花龍に首を傾げたが、すぐに笑顔になって両手を広げた。

「花龍~!」

 そのまま魔法陣を踏んでくれれば、魔力を流して彼の足を捕らえるつもりだった。だが、シオンはニッと笑って魔法陣を壁走りして避ける。

「っ!」

「へっへ~、トラップは父さんたちと散々見てきたから、わかるもんねぇ~」

「……避けられるのは、想定内!」

 花龍は魔銃『アルトゥルス』を腰から抜いた。

 アルトゥルスとは、母方の祖父が戦った魔王の名。世界を滅ぼそうとした恐ろしい存在であり、しかし世界を滅ぼすことでたったひとりを救おうとした優しい魔族の名前だ。

 魔銃を抜いた花龍を見て、反射的にシオンは両側の腰に差している『プティ・ランスロット』を抜いた。

 シオンのために作られた可変式の剣『ランスロット』はまだまだ重過ぎて振り回せないので、同じヴァトライカ製のダガー二刀が彼の現在の武器。

 ランスロットとは、グリフィノーの祖先の名。

 人と精霊との間に生まれた稀有な存在にして、世界を壊そうとした寂しい悪魔。

 けれども最後の最後で祖父の心に応え、グリフィノーの血を『呪われし穢れた血』から、『真の勇者の血』に変えてくれた。今もグリフィノーの血に宿る守護霊のようなもの。それがランスロット。


 向き合うかつての仇敵同士の名を冠する魔銃とダガー。

 宙でランスロットを構えるシオン。

 それにアルトゥルスの銃口を向ける花龍。

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