ポプリ
「何してんだ、こんなとこで」

「私はお母さんとお買い物です。麗龍くんも?」

「ああ、うん。ユリアはこの辺に滞在してんのか」

「はい、そうなんです」

 ユリアは会話しながら、先程アイスクリームをあげた女の子とその母親に手を振った。

 にこやかな笑顔で去っていく親子を見送り、手にしていたアイスの存在を思い出した。

「……これ、やる」

 と、チューブアイスの片割れを差し出す。

「え、でも……」

「あの子にあげたからお前の分無くなったんだろ。やるよ」

「いいんですか?」

「ん」

 ずい、と差し出すと、ユリアは嬉しそうに受け取ってくれた。

「嬉しいです~。今日はすごく暑くて冷たい物が欲しかったんです~」

 そう言って微笑むユリアにホッとして、そしてポケットの中のハンカチの存在を思い出した。

 ずっと持ち歩いていた二枚のハンカチ。プレゼントの方を渡すなら今日しかない。けれども袋はもう皺くちゃで、こんなのを渡すのもどうか……と迷っているうちに、暑いから店の中に入ろうとユリアに促された。

「今日は時間あるのか?」

 いつもは出会ってすぐに別れる、というパターンが多かったのでそう訊いてみる。

「はい。麗龍くんのおかげで」

 入り口を入ってすぐのところにある休憩所には、子どもが遊べるスペースと、テーブルと椅子がいくつか並んでいる。二人は空いている席に向かい合って座った。

「俺の?」

「麗龍くんが九尾の狐をおびき出してくれたおかげなのです。あの狐は、千年以上生きてきた、邪神だったのです」

「ああ……それで幻術の類を」

 長い間生きた狐は神格化することがある。善狐となり祀られるものもあれば、去年襲ってきた九尾のように、邪神と化すものもある。

 麗龍は神を相手にしていたのだ。未熟だった彼が『敵わない』と思うのも無理からぬことだった。

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