ポプリ
 ユリアはきょとり、と目を丸くした後、申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「教えられません……」

 その答えに、どーん、と麗龍の頭の上に巨大な岩が乗っかる幻影が見えた。

「あっ、違うのです! 麗龍くんを信用していないとか、そういうわけではなくて! ええと……私、時々家が変わるのです。だから……」

「じゃあ俺のを教える」

「それも駄目です~」

「……駄目なのか」

「えっと、その、私のようにどこの誰かも知れない者に、簡単に連絡先を教えてはいけないと思うのです~」

「……」

 ああ、そうか、と麗龍は顔を顰めた。

 インフィニティ・セクター所属の者は、身内を守るためにプライベートの連絡先を誰にも言わない、なんてルールがあったような気がする。

 麗龍は両親がエージェントであるから、ユリアは訊けないのだろう。

 そう言われれば、今までまったく連絡先を交換しなかったのも納得がいく。そのチャンスはいくらでもあったのに。

 どうもユリアはインフィニティ・セクター関係者であることを秘密にしたいようだし、それならば、どうするか。

 悩んでいると、ユリアの背後にブルネットの髪の美女が立った。ユリアの母だ。

「では、これをやろう」

 ユリアの目の前にスマホが差し出される。

「お母さん~! え、スマホですか~?」

 振り返ったユリアは驚きに目を丸くし、スマホと母とを交互に見やる。

「プリペイド式だ。払ってある額以上には使えないよ。ま、お前たちだけで使う分には十分だろうさ」

 と、麗龍にもスマホを手渡す。

「え、あの、あ、こんにちは」

 麗龍はスマホを返そうとしたが、その前に挨拶だ、と気づいて頭を下げる。

< 373 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop