ポプリ
「はい、こんにちは。礼儀正しいね、君。うん、気に入った。だからそれあげる」

「え、ええ?」

「それにユリアの電話番号とメアドが入ってるから。ユリアとの連絡用だから、他の人のは入れない方がいいかな。余計なアプリなんかダウンロードするんじゃないよ~?」 

「いや、俺、こんなの貰えません」

「いつもユリアを助けて貰ってるお礼だよ。あと、個人的に、この子のお父さんの仇を討つきっかけを作ってくれたことの礼だね」

「そんな、俺、お礼なんていいです」

「いいから貰っときな。……君が貰う正当な報酬だと思って」

 そう、耳元で囁かれる。

「……インフィニティ・セクターからの?」

 その報酬がユリアの連絡先って、どうなんだろう。

 麗龍が眉を顰めていると、ユリアの母は「あはは」と豪快に笑った。

「もしウチの娘と仲良くしてくれるんだったら、嬉しいなってことで」

 ぽん、と肩を叩いて、ユリアの母は離れて行った。そしてユリアの目の前にスマホをぶら下げる。

「ユリアはいらんのかね。麗龍くんの電話番号とメアドが入ったスマホ」

「ほ、欲しいです~! お母さん、早くください~!」

 ユリアは手を伸ばすが、惜しいところでひょい、とスマホを上にあげられる。

「ほれほれ」

「うわ~ん! 意地悪しないでくださいってばぁ~!」

「ユリア頑張れ! 愛とは力で奪い取るものだ!」

 スマホを餌に、ユリアが遊ばれている。何だか良く分からないが楽しそうである。主にユリア母が。

 麗龍はぽかんとした顔でそれを眺めていた。

 そしてふと気付く。

 何故ユリアのスマホに、麗龍のメアドまで登録されているのか。ユリア母はどこでその情報を得たのか。……決まっている。両親だ。

 もしかして今日ユリアに会ったのは偶然ではなく、互いの家族に謀られたのか。

 そのことに気付いて、麗龍は「余計なことしやがって!」と毒づく。それでもその頬は少しだけ緩んでいた。



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