ポプリ
「麗龍」

 そこへ救世主現る。

 母のリィがドアをノックをして、紙袋を持って入ってきた。

「これ、橘家の和音さんから頂いたんだけど、着てみない……?」

「和音さん? なんで……」

 御三家と呼ばれる由緒正しい家柄である橘家は、昔リィが学生時代に下宿していてお世話になった家である。

 麗龍も和音の孫息子である紫道(しどう)や、孫娘である奏楽(そら)とは交流があるが、正直、和音とはあまり顔を合わせたことがない。その彼が何故麗龍に服を。

 そんな疑問を持ちながら、渡された袋の中身を取り出す。

 ぴらぴらぴら~とした、フリル満載の豪奢なシルクのシャツが出てきた。

「麗龍の彼女が出来た記念に、和音さんが手作りしてくれたの。その丁寧な刺繍も和音さんが刺したんだって。相変わらず凄い人だよ、和音さんは……」

 白いシャツに刺繍された真っ青な薔薇。他にもボウタイシャツや仕立ての良いトラウザーズなど、色々入っていたけれども、どれも煌びやか過ぎた。中には絵本の中に出てきそうな王子様のような衣装まである。

 それはもう見事だ。見事だが。

「誰がこんな服着るんだよ……」

 麗龍はがっくりと項垂れた。もうこれはお祝いというか、嫌がらせレベルである。

「てか彼女じゃねぇし。てか、なんで知って……」

 それは天神地区に住んでいるからだ。

 天神地区、特に天神学園出身者は祝い事に敏感だ。結婚式など地区を挙げてのお祭り騒ぎになるくらいだ。天神に生まれた子はみんなで愛でると決まっているのだ。

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