ポプリ
 公園入口に到着したのは、待ち合わせ時間の十分前。まだユリアは来ていないようだった。

 日差しを遮る木陰に入り、ふう、と息をつく。汗ばんだ肌を撫でつけるように吹いた風に、麗龍は顔を顰めた。

「何?」

 聞き返したのは、風の精霊シルフに対して。

《麗龍~。シャンリーがぁ、シャンリーがぁ~》

 泣いてるの、と。

 葉っぱの冠を頭に乗せた手のひらサイズの精霊が、哀し気に顔を歪ませて麗龍に助けを求めていた。

「どこにいる」

《ここの、奥に~》

 なんでこんなところに。夏休みはミルトゥワに篭るようなことを言っていたのに。

 こっちに来なければならない理由でも出来たのか。こっちに来て、向こうの親しい者たちには気づかれることなく、ひっそりと泣かなければならないような出来事が。

 嫌な予感がして、麗龍は公園へと入っていった。

 シルフが案内をしてくれたのですぐにシャンリーを見つけることが出来た。

 公園の中にある小さな池。そのほとりにあるベンチに座り、頭を項垂れている桃色のツインテール。

「シャンリー」

 声をかけると、ビクリと肩が跳ね上がったのが見えた。

「ら、麗龍……」

 振り返った彼女の頬は涙に濡れていて、いつもの元気さはすっかり失われていた。

「なんでここに……シルフ!」

《だって、だって、シャンリーが哀しいのは嫌だもん~》

 シルフたちがシャンリーの周りで、同じように哀しそうな顔をしながら飛び交っている。どうやら彼女たちの独断で麗龍を呼んだようだ。

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