ポプリ
「シルフ、追いかけろ」

《がってんしょーちだよぉ!》

 辺りにはもうユリアの気配がない。すでに公園からは去ってしまったようだ。それをシルフに追いかけてもらい、その情報を元に麗龍は追いかける。

 公園を抜けて、車道に出る。

 それから横断歩道を渡って、住宅街の方へ。

 気が付けば、全力疾走。

 河川敷が見えてきたところでふわりと揺れる白いワンピースを見つけ、そこからは高速歩法で一気に彼女を追い抜かし、ざざっと前に出る。

 いきなり麗龍が目の前に現れたので、ユリアは小さく悲鳴を上げながら足を止めた。

 急な動きに身体がついていかなかったのか、ふらりとよろけたので、麗龍は慌てて手を伸ばし、その細い手首を捕まえ、引っ張り上げる。

「えっと……ごめん」

 軽く乱れた息を整えながら、謝罪する。

「意外と足速いんだな」

「……麗龍くんほどじゃないですよ~」

 ユリアは少し泣きそうな顔をしていた。

「ユリア、さっきのは……」

 違う、と続けようとしたのだけれど、ユリアはゆるゆると首を横に振った。

「気にしないでください。ちょっとビックリしただけです。……ハンカチ、買いに行きましょう~?」

「ユリア」

「……私、おともだち、ですよね。だから……気にしないで、くださいねぇ……」
 
 俯きがちに微笑むユリアが、あまりにも儚くて。

 このままにしたら、緩やかに川面を渡ってくる風にさえ飛ばされて、消えてしまうのではないかと思われた。

 会えるのは今日が最後に、なってしまいそうだった。

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