ポプリ
「嫌だ」

 掴んでいた手首を思い切り引き寄せて、逃がさないと言わんばかりに強く抱きしめた。

 麗龍はまだ成長途中でそんなに身長があるわけではないが、ユリアはその麗龍より遥かに小さかった。

 腕の中に抱き込んだ彼女は、麗龍の胸に顔を埋める。

「友達じゃねぇよ。ただの友達だったら、こんな風に追いかけてきたリしねぇから。あいつは違うんだ。ちょっと失恋して、大泣きして凄い顔してたから肩貸してやってただけだ。俺は……俺が、こんな風に、自分からするのは、ユリアだけだから」

 腕の中のユリアが身じろぎしたけれど、麗龍は腕に力を込めた。

「俺が好きなのは、ユリアだから」

 言い切って、彼女の金色の髪に頬を寄せる。

 ほにゃりとした笑顔も、頼りなさそうなところも、間延びした喋り方も、すぐ泣きそうになるところも、ワンコみたいに素直で正直な表情も。全部、愛しいと思う。

 全身が心臓になったかのような、強い鼓動を感じた。真夏の暑い日差しのせいでもなく、全力で走ったせいでもなく、ただ、彼女への想いの強さを認識した。

 ユリアの存在を消さないように。

 この手の中に収めておけるように、必死になっていた。

 そして、ふと我に返る。

 俺は何をしているのだ、と。

「うわっ、ごめん!」

 ぱっと手を離し、一歩下がる。

 耳まで真っ赤になりながらわたわたと手を動かしていると、ユリアも真っ赤な顔で、潤んだ碧い瞳を麗龍へ向けていた。

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