ポプリ
「ところで麗龍は? あれからユリアちゃんには会ってないみたいだけど、どうなってんの?」

 麗龍の睨みは無視して、シャンリーは訊ねる。

「ああ……」

 麗龍はテーブルに並んだご馳走の中からローストビーフを取り分け、とろけるような舌触りに感動しつつ、良く晴れた空を振り仰いだ。

 


 想いを伝えあったあの日以降も、メールでのやり取りはしている。

 けれど会ってはいない。

 互いに約束をしたからだ。


「私、自分の力でここに帰ってこようと思うのです。それまで、待っていてくださいね~」

 デート(……だと認めよう)したあの日、別れ際にユリアはそう言った。

 母親に連れてきてもらうのではなく。何かの事件に巻き込まれるのでもなく。ユリア自身が、彼女の意思で天神にいる麗龍に会いに来る。

 彼女はインフィニティ・セクターのエージェントとして、天神地区担当に立候補しようとしていた。かつて本部長のアリスカ・テフレチェンコ(現・タナカ)がそうしていたように。

 組織の中にあって、ユリアが麗龍の近くにいようと思ったら、その方法しかなかった。

 その決意の内容までは知らない麗龍だが、想いの強さだけは理解出来た。

「じゃあ、俺も。それまでに老師から黒帯貰えるようにする。あと……精霊の女王を、完璧に、召喚出来るようにする」

 龍娘流で黒帯を取るのは、他の流派の何倍も難しい。現に、何年も修行を積んできた麗龍でさえ、まだ許しては貰えないのだから。

 精霊の女王の召喚も、麗龍はまだ補助の魔法陣なしでは一柱も召喚出来なかった。

 それを、次に会う時にまで。

 そう、約束をして別れた。

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