ポプリ
 毎日のメールは筆不精な麗龍に合わせて、朝の挨拶と寝る前の挨拶に留めている。ユリアは世界中を飛び回っているのか、たまにとんでもない時間にメールが入っていることがある。

 だがそれも時差を考えれば大体どの辺りにいるのか想像出来た。おかげで地理の成績だけは上がった。

 黒帯は進級してすぐに取ることが出来たし、あとは精霊の女王召喚を達成すれば、麗龍は約束を果たしたことになる。

 ユリアはどこまで頑張れているのか。

 そんなことを、青い空を見上げながら想う。




「そっかぁ。じゃあ頑張らないとねぇ」

「ああ」

 空から視線を落とすと、少し離れたところに祖父母の姿が見えた。勇者フェイレイと、召喚の師匠リディアーナ。

 いつも溌剌として元気な祖父の隣で穏やかに微笑んでいる祖母は、

「麗龍が精霊の女王を召喚出来るようになったら、私もまた、旅に出るよ」

 と言っていた。

 その姿は年々若返っているように見える。時折、おっとりと微笑むその貌が、麗龍とそう変わらない少女に見えることもある。

 その異常さに、みんな気付いている。

 神殿側からも訝しむ声が聞かれる。その原因に気付かれたらきっと、彼女は惑星王に並ぶ神聖な存在として大々的に世界に知らされるだろう。

 ひっそりと崇めていたい皇族たちの意に反して。

 神殿の力を広める材料として。利用されてしまうだろう。




「それでもいいんだ」

 祖父のフェイレイは穏やかに言っていた。

「それで世界の平和が保たれるのなら。誰かが真実を知っていてくれるのなら、それで、いいんだよ」

 それは祖母を穢すようなことではないのかと、思ったけれど。

 正義とはひとつではないのだと、祖父は言った。


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