ポプリ
 正しさは人それぞれに違っていて、それぞれの正義を認めてやらねばならないのだと。神殿がその力を世界に広めているのは、平和のためでもあるのだと。

 もちろん、中には間違った正義を唱える者もいるだろう。そのせいで争いも起きる。

 その中で自分の正義を貫きたいのなら、勝ち取っていくしかない。他者に認めてもらうしかない。

「俺が魔王に負けていたら、魔王が『正義』だったんだ」

 それは分かり易い例えだった。

 今ある世界は、勇者フェイレイが勝ち取った『正義』の形。

 幾通りもあった未来の中から選ばれた一筋の道。それがどんなものであれ、正しいことであったのだと後世に伝えられていく。そうして歴史は紡がれる。

 麗龍は正義の奥深さに感嘆した。

「……正義って、難しいんだな」

 悩みだした孫に、フェイレイは白い歯を覗かせて笑った。

「麗龍はたくさん人助けをしているって聞いたぞー。それは良いことだとじいちゃんは思うな!」

「いや、放っておけないから……」

「それも麗龍の『正義の心』だな!」

 くしゃり、と頭を撫でられて、麗龍は呆けた顔で祖父を見た。

 ──そんな小さなことも、正義のうちか。



 あの時の祖父の言葉はジリジリとした火種となって、麗龍の胸の奥に残った。

 その熱を思い返していると、祖父母が麗龍の視線に気づいて手を振ってくれた。

『だから、神殿がどう出ようと。俺は、リディルの傍にいられれば、それでいいんだ』

 祖父の言っていた言葉が蘇る。

 麗龍が早く精霊召喚術をマスターしないと、あの二人が一緒にいる時間が減ってしまう。

 リディルが旅を休止して城に留まっているのは、家族たちとの時間を共有し、思い出に残したいと思っているからかもしれない、と誰かが言っていた。

 その祖母が最期に一緒にいたいのはきっと祖父だ。だからまた旅に出たいのだ。

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