ポプリ
「シルフ……じゃねぇ、グィーネ、いるか」

《ただの呼びかけに応じるほど暇ではないが》

 なんて、鈴の音を転がしたようなキラキラした声が脳内に響く。風の精霊の女王、グィーネだ。

「いるじゃねぇかよ。ティーダ怪我しねぇように見ててくれ」

《そのように頼まれずとも、あれには我を初めとする女王の加護がついている。この城の中であれば心配は無用だろう》

「ああ、そっか」

 じゃあ追いかけますか、と走り出す。

 ティーダが通っていった後に微かに漂う気の残滓を追っていくと、すぐにガゼボの柱の影からひょこっと顔を覗かせているティーダを発見。

「わー!」

 物凄くいい笑顔で、また逃げていく。

「待てー」

 麗龍もちょっとノリノリで、悪人顔で追いかけていく。無論、手加減はしている。捕まえられそうな位置まで追い込んでは少し離れて、また追い込んでは離れて。

 その度に楽しそうな笑い声をあげるので、追いかける方としても満足だ。

 しかし長い。ルナだったらもう疲れたー、と言って止めている。

 どれだけ体力あるんだ、この五歳児。

「そろそろ捕まえるかぁ」

 と、本気モードのスイッチを入れたところで、ティーダが振り返った。

「んにゃあ!」

 と叫んで、更にスピードを上げた。麗龍の本気モードを感じ取ったらしい。

 ほう、と感心しながら追いかけていくと、なんと庭木の上へぴょん、と飛び上がった。しなる枝を利用して、次々に木々を渡っていく。

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