ポプリ
 学園にいると、兄に対する罪悪感が少し薄れているようだ。

「奏楽さま、今日はクッキーを焼いてきましたの。一緒に食べましょう?」

「奏楽さんは僕たちとサッカーをする約束なんだ!」

「奏楽おねえさまは私たちと『お別れ会』の話し合いがあるのよ!」

 学校ではボクを慕ってくれる子たちが多くて、いつも周囲は賑やかだ。みんな可愛らしくて、とてもとても癒される。

「じゃあクッキーは昼食のときにご馳走になろうかな。サッカーはその後で大丈夫だよね? お別れ会は放課後に話し合いのはずだから、少し待ってね」

「はい!」

 みんないい返事なので、ボクも思わず微笑んでしまう。

 そうすると何故だかみんな愛らしく頬を染めるので、その愛らしい顔見たさにボクは更に微笑む。

 うん、素敵な笑顔だ。

 春の庭で蕾が花開く。そんな軽やかで甘やかな音が聴こえてきそうだ。

 そんなことを思っていると。

「そういえば奏楽さま、今日はヴァイオリンをお弾きにならないのですか?」

 友人の一人にそう訊ねられて、少しどきりとする。

 いつもは休み時間、気が向いたときに訊かせてあげたりするのだけれど、最近はずっと休んでいた。

 弾こうとすると兄の別人のような顔が浮かんでしまって。ボクは知らずに兄を追い詰めていたのではないかと思ってしまって。躊躇してしまうのだ。

「うん。今日は気分が乗らないかな」

 そう言えば、みんな残念だと言ってくれた。

 具合でも悪いのかと、心配されてしまった。

 それが何だか申し訳なかった。

< 417 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop