ポプリ
「ぶとーかい、ダンスするよねぇ。俺、ニガテなんだよなぁ……」

 苦手でもなんでも、舞踏会では必ず誰かを誘って一曲は踊らなければならない。

 姫君たちの間では誰が勇者子息と一番に踊れるかを競われているし、それに伴って意中の姫君がシオンに夢中なのを面白く思わない貴族のお坊ちゃんたちも出てくるので、選ぶ方としても中々難しい。

 姉か妹がいれば良かったのだが、生憎シオンはまだ一人っ子。父や祖父母の名を穢すことになるので下手を打つわけにもいかないし、シオンにとって舞踏会とはなかなかに憂鬱なものである。

 そんなときは、花龍のふわふわな髪と、ふわふわな笑顔と、ふわふわな抱き心地を思い出して心を落ち着ける。

 何故だか彼女のことを想うと心が安らぐのだ。

 今日も追いかけっこをして逃げられたけれど、花龍のことを考えただけで心が温かくなった。ずっと一緒にいて、ずっと傍にいて、ぎゅっとしていたい。

 それを父のシンに言ったら、興味深そうな顔をして、

「お前と花龍は、俺とリィみたいなものなのかもな」

 ……なんて、言われた。

 兄妹みたいなもの、という意味だろうか。

 よく分からないけれど、それならばそれでいい。父と叔母はとても仲良しだ。シオンも花龍とああいう関係でいたいと思う。



 そんなことを考えながら黒い服の袖を通したところで。

 ひらりと、紐が落ちてきた。

「ん?」

 床に落ちたそれを摘み上げる。

 紐、というか、紐のついた布だった。向こう側が透けて見えてしまうほどに薄いピンクの布地。良く見れば、ドレスの影にもいくつか小さな布が。

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