ポプリ
 深夜の天神学園、用務員室。

 夫の死神を夜の巡回へと送り出し、一息ついていた雪菜のもとに黒い羽が一片、舞い降りてきた。

 それを手にし、中庭に出てみる。

 わざと存在を主張しているのだろうか。隠そうともしないその気配は満月を背にし、校舎の屋上フェンスに腰掛けていた。

「あなたは……」

 黒い羽を抱きしめるようにし、雪菜は屋上を見上げる。

「よぉ。いい夜だな」

 低い声で語りかけてきたのは鴉丸一族の元長、鴉丸飛燕だ。彼は母と顔見知りで、息子の孔雀とは雪菜も顔見知りだ。もっとも、いじめっ子といじめられっ子の関係だったので、付き合いがあるわけではなかったが。

 だが天神学園の高等部に通っていた頃、孔雀の息子の鷹雅とは仲良くなれた(雪菜的認識)。

 だから雪菜は鴉丸に対して悪い印象は持っていない。

「飛燕さん、こんばんは」

 雪菜は屈託の無い笑顔で声をかけた。飛燕はそれを居心地悪そうに受け止め、赤い瞳を逸らした。そうして天上に輝く白い満月を見上げながら、独り言のように呟いた。

「……小雪は、逝ったんだな」

 低い声で投げかけられた言葉に、雪菜ははっとする。

「もう、いねぇんだな」

 確認しているだけで、確信はしているのだろう。雪菜は顔に穏やかな笑みを浮かべ、静かに頷いた。

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