ポプリ
 今日も今日とて追いかけっこを始めるシオンと花龍。

 花龍が逃げなければ追いかけっこは始まらないのかもしれない。

 だが花龍は逃げる。

 何故ならば、シオンが追いかけてくるからである。追いかけてくるから、逃げなければならない。日常茶飯事なそれは、ほぼ反射的な行動であった。


 廊下を全速力で走りながら、花龍は苺生徒会長の言葉を思い出した。

『校内での追いかけっこ禁止。見つけたら龍乃裁判で死刑』

「はにゃー」

 死刑は困る。父と母が心配してしまう。最近仕事が忙しいらしく、夜も帰ってこない日がある両親。寂しいとは思うけれど、多忙な彼らに心配をかけたくないと思う出来た娘である。

 しかし走らなければシオンに捕まってしまう。ならばどうするか。

 考えた花龍は名案を思いついた。

 それなら校庭に出ればいい。廊下を走るから問題なのだ。校庭ならば走っても問題ないはずだ。

「とぉー」

 ちょうど開いていた窓台に手をつき、ひょいっと外に飛び出す。

「むうっ、今日は外まで逃げるのかっ」

 当然、シオンもそれを追いかける。窓から飛び出せば、晩秋のひんやりした空気に包まれた。

 落ち葉のある地面を蹴り、全速力で追いかけっこをしていると。

「はうっ!」

 前を走っていた花龍が、曲がり角で誰かにぶつかって弾き飛ばされた。

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